セシウムの除染は可能か

気になること!

 セシウムの除染について書きたいと思います。

基礎知識 (Wikipedia参照)

(1) 放射能(radioactivity)とは
  放射能とは、原子核が崩壊して放射線を出す能力のこと。

(2) 放射性物質(radioactive materials)とは
  放射性物質、放射能を持つ物質の総称で、ウラン、プルトニウム、トリウムのような核燃料物質、放射性元素もしくは放射性同位体、中性子を吸収又は核反応を起こして生成された放射化物質を指す。

放射能を除去できるか

 自然科学の研究分野で、意見が分かれている。物理学と化学の分野では、放射性物質が安定同位体になるまで原子核の崩壊が続くので、放射線を出し続ける。これを止めることは、(実験室を除いて)不可能との立場を採る。

 一方で、生物学の研究者たちは、微生物の働きで、放射性物質から放射線が出なくなることを実証している。このメカニズムはよく分かっていない。物理学の世界では、「元素」が他の元素に変わることは、通常ではあり得ないとの立場だが、生物学では、微生物の働きで、別の元素に変わることもある、という立場を採る研究者もいる。

 ルイ・ケルヴラン(1901-1983)は、生体内における酵素やバクテリアの作用によって、一つの元素が別の元素に転換するという生物学的元素転換という理論を提唱した。

 土壌微生物を使ったセシウムの除染が話題になっているが、除染されたセシウムはどこに行ったのか、の問いに誰も答えようとはしない。

 それは科学的に説明ができないからだ。物質が完全に消滅するには、莫大なエネルギーを放出する。もし、セシウムが検出されなくなったとしたら、セシウムはどこに行ったのか。

 物質が消滅することはあり得ないから、考えられるのは、他の非放射性物質に置き換わったと言うこと。
 もし、そうであるのなら、その置き換わった物質の量が増えているはず。そして、それは計測可能なはず。
 まあ、こんなところが疑問点でしょうか。

 この問題は自然科学全般で考える必要があるのではないかと思います。

 微生物の研究は、実は、何も進んでいません。微生物は、そもそも生物なのかどうかも不明なものがあり、特殊な条件下でのみ動き出すものもあるようです。

 現状の微生物の研究は、培養が可能なものだけに限られています。培養できない99%の微生物は、そもそも研究の対象にすらなっていないのです。何があってもおかしくない分野だということです。

 物理学の人に、広島、長崎で人が住める理由を説明できる人がいるのでしょうか。セシウムなどの放射性物質はどこに行ったのでしょうか。地上500mで爆発したとか、量が少ないとかいう理屈は、「どこに行ったのか」という質問に対して全く答えになっていません。。たとえ量が少なくても、残留していなければおかしいと言うことです。広島・長崎の放射性物質は、どこへ行ったのでしょうか。土壌に残留した放射性物質は、時間が経つにつれ、土壌の粘土粒子に取り込まれ、水では溶脱しないことが研究で明らかになっています。

 土壌の中には、茶さじ一杯の土壌に地球上の全人口の数だけ微生物がいると言われています。しかし、その微生物がどんな働きをしているかは、全く分かっていないのです。

 その中のいくつかを集めたのがEM菌です。EM菌については、なぜか日本では否定的な意見の人もいるようですが、世界的には有名で、そのうち、逆輸入されることになるかも知れません。

 この構図は、バイオディーゼルに似ています。先進国は、バイオディーゼルに移行しているのに、なぜか日本だけが別の路線です。このことは国民のほとんどが知らない、あるいは注目していないのではないでしょうか。

 この点は、外国から見ると日本が異常に見えます。情報が操作されている証でしょう。

 セシウムの除染に話をもどすと、土壌微生物を使った除染をする人たちがそのメカニズムを説明しないのは、正しい選択かも知れません。下手に理論付けようとすると批判の恰好の餌食になります。

 ただ、気になるのは、実証試験なのに、その試験の内容はとても科学的とは言えないことです。批判しているのではなく、科学的なデータを採るのはそれだけ難しいと言うことです。実証はお金と時間が必要で、個人レベルでできるものではありません。
 セシウムの除染が不可能だとするのでは、実用学問としては何の役にも立ちません。では、微生物による除染は可能なのでしょうか。

 これについては、どのみち理論だの学会だのの話になるので、そんなことにつきあっているのではなく、効果があるのかないのか、をはっきりさせたらよいのではないかと思います。原理はあとで考えれば良いでしょう。

 土壌微生物を使った実証試験の最大の問題は、表層5センチに90%のセシウムが蓄積しているのに、耕起して混ぜてしまい、その数値を計測していることです。混ぜれば線量が下がるのは当たり前。・・・・・ だから試験は難しいです。さらに、この方法では、線量が毎年強くなる恐れがあるようです。また、除染と放射性物質の回収とを分けて考えることが重要だと思います。混ぜることで線量を低減できても、放射性物質の絶対量は変わっていないのです。混ぜないで回収することが重要だと思います。

 土壌を薄くはぎ取る、水で洗い流す、・・・、この方法の問題は、前者は、はぎ取った土壌の処理をどうするのかということ、後者は放射性物質の拡散をどう考えるのかという大きな課題があります。

 土壌をはぎ取る方法は、文明の滅亡を招く愚策です(モンゴメリの「土と文明」参照)。水で流す方法は、最終的には地下水や海に流れだし汚染を拡大することになります。それによる海生生物に与える影響は計り知れないものがあります。海への拡散は絶対に避けなければなりません。それは、もはや人間が制御できない領域だからです。

 森林、道路、建物、農地、など平面的、空間的に蓄積したセシウムを除去する方法として、現実的なものは土壌微生物を使う以外にはないと思います。そして、微生物による浄化がもしできないのであれば、セシウムの除染は不可能ではないでしょうか。

 微生物の活用で、現在の方法の大きな過ちは、微生物を撒くことだけが注目されていることです。微生物はどうやって生きているのか、その視点が忘れられています。微生物が生きるためには、有機物の炭素分が必要です。これが微生物のエサであり、エネルギー源になります。つまり、有機物の供給なくして、微生物の活用は困難だと言うことです。

 土壌微生物については、上で書いたように、本当は、だれも分からないのが現実です。これは土壌微生物の研究者の言葉です。セシウム除染のために、この最後の方法に予算を集中する価値があるのではないでしょうか(管理人はこの分野とは全く関係していません。念のため)。

 EM菌は、その候補の一つになるのかも知れません。しかし、土壌微生物はよく分からないのが実態です。EM菌ありきの考え方は危険な気がします。外部から土壌微生物を持ち込むという発想ではなく、土着の微生物を活性化する方法の模索の方が、方法論としては適しているように思います。繰り返しますが、土壌微生物の本当の専門家は地球上に一人もいないのです。その中でも海外で長くご活躍された田崎和江博士の研究など、もっと評価されても良いように思います。

除染の政府基準

 9月27日、環境省が公表した放射性物質の除染基準では、(追加)被ばく量が年間5ミリシーベルト以上の地域を対象とすることを示した。この理由として、5ミリシーベルト以下なら、時間の経過により減量、風雨による拡散により、政府目標である平常時の年間許容量1ミリシーベルト以下になるとしています。

 5ミリシーベルト以上の地域はすべて福島県内に位置しています。福島県は都道府県の中で3番目に大きな県で、その面積は13,783平方キロです。今回の除染対象面積は1,778平方キロで、福島県全体面積の13%を占めます。日本で最も小さい県は香川県で面積は1,876平方キロです。今回の除染面積は、香川県全体の95%に相当する途方もなく広い面積です。東京都の面積で比較すれば、81%に相当します。

除染技術の動向

 9月に入ってから、除染技術が次々と公表されています。その概要をご紹介します。

ゼオライトによるセシウム吸着

 ゼオライトを用いたセシウムの吸着は、様々な組織が研究している。たとえば、東京農業大学の後藤教授のチームは、非放射性セシウム133を用いて、天然ゼオライト施用区のチンゲンサイのセシウム吸収が、1~2%であることを示した。この意味は、ゼオライトが土壌中のセシウムを効率的に吸着したことを示しており、一度吸着されたセシウムは、作物によって吸収されないことを示すもの。この点が重要です。これは、粘質土、多腐食黒ぼく土でも同様の効果があることも明らかにした。また、ハサマは、セシウムを効率的に吸収できるゼオライトを開発した。

セシウムの汚染厚さ

 近畿大学原子力研究所の山西准教授のグループは、土層を5mm単位で計測し、土の表面1cmにセシウムの94~99%が蓄積していることを明らかにした。

作物のセシウム吸収阻害

 福島県農業総合センターは、灰色低地土(粘質土)の水田で、カリウムを施用することで、イネのセシウム吸収を阻害できることを示した。これは、セシウムと成分が似たカリウムを撒くことで、イネに先にカリウムを吸収させるもの。セシウム濃度が高いため作付け禁止となった水田での試験栽培の結果、玄米から検出されたセシウムは、玄米1kgあたり、最大でも80ベクレムに留まった。

セシウムの回収

 (独)産業技術総合研究所は、セシウムをプルシアンブルーナノ粒子吸着材で回収する方法を開発した。プルシアンブルーは1704年に初めて人工的に合成された青色顔料。この技術の特徴は、安価なプルシアンブルーを用いて、ほぼ100%のセシウムを回収できること。すなわち、汚染物質の量を大幅に減量できるという特徴がある。

 方法は、まず、汚染土壌を薄い硝酸液(希硝酸 0.5mol/L)に入れ、溶液温度を200℃に上げで回収するもので、この溶液は再利用が可能。

土壌粘土のセシウム吸着と溶出

 土壌粘土は、セシウムを効率的に捕獲・吸収する能力がある。粘土鉱物(2:1型層状ケイ酸塩鉱物)は、薄いシート状の構造を持っており、負電荷に帯電している。これに陽イオンであるセシウムイオンが引き寄せられる。このシート状の構造体は、ケイ素四面体の構造になっており、その穴の大きさがセシウムの大きさにフィットするため、しっかり固定される。同様の現象はセシウムの他、カリウムやアンモニアでも起きるが、この結合力は原子量が大きいセシウムが強いため、他のイオンが存在してもセシウムが吸着される。一度、吸着されると簡単には離れないことから、水を加えても、セシウムが溶出することはない。これは、日本土壌肥料学会の資料に基づくが、農林水産省が行った現地の試験においても、粘土中のセシウムが水に溶出しないことが確認されている。

 ところで、土壌中のセシウムは、土壌微生物の働きで濃縮されていくようです。したがって、セシウム137の半減期30年が経てば、線量が半分になるのではなく、ますます強い線量を出す恐れがあるようです。これは、土壌微生物を含めた土壌小動物の食物連鎖により引き起こされる現象です。昔、大きな話題になった有吉佐和子の「複合汚染」などは、同じメカニズムで発生しています。土壌コロイドに電気的に強くくっついているセシウムは簡単には離れないので、水に溶け出すことはありませんが、土壌微生物の体内に取り込まれると話は別です。土壌コロイドのセシウム吸着は粘土鉱物の組成によっても異なるようです。土壌というものはとても複雑です。

 土壌微生物やその遺骸は、より大型の生物のエサになります。その段階でセシウムがどんどん濃縮されていきます。その大型の土壌小生物が死ぬと、大量のセシウムを土壌コロイドが吸着できず、植物に吸収されやすくなるのではないかと思います。これを実験で確かめるには、気の長い研究が必要になります。

 出典:セシウムの「環境的半減期は180〜320年」

 テレビを見ていたら、藻で吸収する対策を紹介していました。これと同じことは土壌コロイドを使えばでできると思います。
 まだまだあるのですが、このくらいでやめておきます。

 解決すべき課題も残されていますが、基礎技術、技術開発は着実に進んでいます。今まで分からなかったこと、チェルノブイリの経験に頼っていたことが、実証的に明らかにされてきています。

 物理、化学の分野に加え、生物の分野、特に微生物分野が入ってくれば、除染は決して不可能ではないことが分かると思います。困難に直面した時、技術は急速に進化します。あまりにも細分化してしまった学問分野を横断的に再構築する良い機会かも知れません。

 セシウム137がベータ崩壊してバリウムになるのか、あるいはセシウム133の安定同位体になるのか、その原理はよく分かりませんが、管理人の個人的意見としては、それぞれの学問分野の成果を偏見なく評価すべきではないかと思います。
 
 心配なのは、外部被ばくよりも、むしろ内部被ばくの方でしょう。除染を急ぐあまり、作業をする人の安全を軽視した方法が採られることが心配されます。同様に、チェルノブイリでみられるように、自然環境の中では、セシウムが濃縮されることもあり得るということも考えておく必要があります。

 放射性物質を如何に拡散させずに回収し、封じ込めるか。これが大きな課題です。セシウムの除染ではなく、セシウムの回収に焦点を当てる必要があるのではないでしょうか。

セシウムと土壌

 セシウムは水で洗い流せるのか?
 たぶん、皆さんが混乱しているのはこの点だと思います。
 
 一般的に自然界に存在するものに付着したセシウムは、水により除染が可能なようです。

 ところが、土壌は違います。土壌の粘土粒子に付着したセシウムは水には溶脱しません。それは、マイナスの帯電した土壌コロイドにセシウムが電気的に結合しているからです。セシウムに汚染された土壌を回収して、プルシアンブルーやゼオライトなどのセシウム吸着素材を用いて回収し、残った溶液を普通に捨てることができるのは、この原理に拠っています。つまり、粘土コロイドが吸着したセシウムは水には溶出せず、その原理に基づいてセシウムを別の素材に吸着させることで汚染物質の総量を減少する方法では、セシウムが外部に漏れることはない、ということです。ところで、粘土コロイドがセシウムを吸着できる容量(常識的にはCEC)には限界があり、それが飽和するとセシウムが水に溶け出すように見える現象が発生します。これは、砂質土系の土壌やアロフェン主体の粘土鉱物で顕著になると考えられます。

 同じ圃場でも土壌の性質は異なります。土壌の持つこのような機能を使う除染方法は、土壌の性質により効果が異なることを認識する必要があります。

 このように土壌はとても複雑です。自然科学の原理を無視した、文化系が大半を占めるマスコミの報道には注意が必要です。土壌は同じ圃場でも性質が大きく異なります。それなのに、そのような前提を無視して、この除染方法は効果がないとか効果があるとか言いたいのが文化系のマスコミの人たちです。一般の人にわかりやすく報道することと事実を偽って報道することとは別の次元のことです。

 セシウムの除染ができることは確かです。しかし、その方法に要する経費について国民の理解が得られるかどうかは疑問です。
 チェルノブイリの経験を過大に評価している人がいるようですが、ウクライナのチェルノーゼムと日本の土壌とは全く違います。

 だれも経験したことのない今回の原発事故による放射能汚染を簡単に考えるのではなく、じっくりと対策を検討すべきだと思います。責任問題の追及は、施策をミスリードします。そんなことに労力を使うのではなく、今重要なことは、除染が終わるまでの期間、住民の方々の生活を保障する手厚い施策だと思います。

除染の意味

 「除染」という言葉は、その意味をよく考える必要があります。

 汚染物質を取り除くことが「除染」であるのなら、「除去された物質」はどこに行くのか。

 汚染物質の「除去」と「回収」は、分けて考える必要があります。高圧水洗浄で「除去」された放射性物質はどこに行くのか。
 それは、「回収」されない限り、いずれは海に流れ込むことになるのではないでしょうか。

 海に流れ込んだ放射性物質は、プランクトンにより取り込まれ、それを食べた魚に蓄積、濃縮されていきます。この現象は、もはや、人間が関与できない領域です。

 土壌の表層部に高濃度で放射性物質が蓄積しているのは、土壌コロイドにより吸着しているからです。褐色森林土のように粘土分の少ない、すなわち、土壌コロイドの少ない土壌では、セシウムを表層部に留めておくことができず、(深さ方向に)広範囲の土層の分布していると考えられます。

 このようなタイプの土壌では、表土の剥ぎ取りによる線量低下は期待できません。

 そこで着目されるのが、セシウム吸着機能を持つゼオライトなどの鉱物資材です。ゼオライトは、石の形状したものは大谷石ともよばれます。この石は、様々な特徴を持っているのですが、今、着目されているのは、セシウムの吸着能力と、一度吸着したセシウムを容易には離さない能力です。

 セシウム吸着材としてゼオライトを使うことは、大谷石に関心があった管理人が直ぐに気がついたくらいなので、大した技術ではありません。重要なのは、セシウムを吸着したゼオライトを「どうやって回収するか」ということです。

 この方法として、ゼオライトを回収可能な「ボール状」に加工し、セシウム吸着後に回収するという手法が考えられます。粉状では回収はできません。

 回収効率を考慮し、最初は、粉状のゼオライトが、回収時にはボール状になっているということが望まれます。ゼオライト粉末をボール状に加工するだけなら、高分子ポリマーを用いれば簡単にできそうです。しかし、それでは、回収効率に問題があります。ゼオライトは、あくまで粉状で散布する必要があるのです。そして、回収時には、それは、「ボール状」になっている必要があります。

 ここまでヒントを与えれば、いろいろなアイディアが出てくるのではないでしょうか。